勉強が苦手な子に「努力しろ」と言う前に知っておきたい遺伝の話

勉強に困っている少年を表すイラスト 教育・子育て
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正直に言います。私はずっと、勉強が「努力すれば報われるもの」だと信じていました。

どの教科も、どれだけ時間をかけても成績に結びつかない。テスト勉強をしっかりやったつもりなのに、点数は大して変わらない。そんな経験を繰り返しながら、「自分の努力が足りないのかな」と自己嫌悪に陥っていた時期がありました。

一方で不思議だったのが、運動です。体育の授業も部活も、特別に頑張った記憶はないのに、なぜかそこそこできた。「勉強は努力してもダメなのに、なんで運動は自然とできるんだろう」と、ずっと不思議でした。

勉強は苦手なのに運動は得意な子どものイラスト。才能の違いを表す対比イメージ

そして気づいたこともあって、自分の勉強のやり方や癖が、親のそれと妙に似ているのです。同じところでつまずき、同じようなやり方で対処しようとする。

行動遺伝学という学問に出会ったとき、これらの経験が一気につながりました。

この記事では、「勉強ができない=努力不足」という思い込みを、科学の側から解きほぐします。そのうえで、遺伝を変えることはできない親が、今日から何を変えられるのかを具体的に整理します。

本記事は、慶應義塾大学名誉教授・安藤寿康先生の研究および著書群を主な根拠として構成しています。安藤先生は日本の行動遺伝学・双生児研究を長年にわたって牽引してきた研究者の一人です(KAKEN研究者情報)。

なお、本文中の直接引用は手元の紙版に基づいています。版やページ数は刷・版によって異なる場合があります。

関連記事:教育格差の構造的な原因を詳しく知りたい方へ
遺伝率の正確な定義、遺伝と環境が絡み合う仕組み(遺伝-環境相関)、社会構造として教育格差がなぜ再生産されるのかについては、別の記事で詳しく解説しています。
→ 「努力だけでは説明できない――教育格差が止まらない構造的理由
本記事は、その知見を踏まえたうえで、個人と家庭のレベルで何ができるかに焦点を当てています。


学力の個人差は、どこから来ているのか

双生児研究をイメージしたイラスト。双子の子どもとDNA二重らせんが描かれた行動遺伝学のイメージ図

行動遺伝学は、一卵性双生児と二卵性双生児を比較することで、ある特性の個人差に遺伝と環境がどの程度関わっているかを推定する学問です。一卵性双生児は遺伝子がほぼ100%一致しており、二卵性双生児はおよそ50%が一致しています。この二つのグループの類似度を比較することで、遺伝の影響の大きさを統計的に推定することができます。

数十年にわたる国内外の双生児研究の蓄積から、学力や教育達成の個人差のおおむね40~60%が遺伝的な差異と関連していることが繰り返し報告されています。

学業成績に影響する要因の割合を示すグラフ。遺伝50%・家庭環境30%・努力20%のインフォグラフィック

例えば、28の双生児コホートを分析したSilventoinenら(2020年、Scientific Reports)の研究では、教育達成の遺伝率は約0.43と推定されています。また、Rimfeldら(2018年、npj Science of Learning)は、学校成績の安定性に遺伝要因が大きく寄与していることを示しました。

残りの個人差は、家庭環境(行動遺伝学では「共有環境」と呼びます)や、友人関係・偶然の経験といった本人固有の環境要因で説明されます。安藤先生の分析では、日本のデータにおいて家庭環境の影響も無視できない大きさであることが示されています。

ここで重要な注意点があります。「遺伝率50%」は、「あなたの子どもの成績の半分が遺伝で決まっている」という意味ではありません。遺伝率というのは、ある集団全体を見たときに、個人差のうちどれくらいの割合が遺伝的な違いで説明できるか、という統計量です。一人ひとりの子どもに直接当てはめることはできませんし、環境条件が変われば数値自体も変動します。この点についてもっと詳しく知りたい方は、次の記事で丁寧に解説していますので、そちらを参照してください。

ここで押さえておきたいのは、次の一点だけです。

同じ教室で同じ授業を受けていても、成績がバラバラなのは「努力の差」だけでは説明できない。この事実は、科学的に裏付けられています。


「努力する気力」自体にも遺伝の影響がある

集中力や努力の継続しやすさに個人差があることを表す二人の子どものイラスト

「遺伝が学力に影響するのはわかった。でも、努力する気持ちは本人次第でしょう?」

こう思った方は多いと思います。実は、そうとも言い切れないのです。

安藤先生は著書『能力はどのように遺伝するのか』(講談社ブルーバックス、2023年)の中で、「勤勉性」を含む人格特性に遺伝の影響があることを述べています。また、国際的なメタ分析(Vukasović & Bratko, 2015, Psychological Bulletin)でも、パーソナリティ特性全体の遺伝率は加重平均で約40%と推定されています。

これは、「コツコツ勉強を続けられるかどうか」「集中力を長時間保てるかどうか」「誘惑に負けずに机に向かえるかどうか」といった傾向自体が、遺伝の影響を受けているということです。

誤解しないでいただきたいのは、「40%が遺伝で固定されている」という話ではないということです。そうではなく、遺伝的に努力を継続しやすい人と、そうでない人がいる。そういう「向き不向き」が存在する、ということです。

この事実を踏まえると、「なんで勉強しないんだ!」「努力が足りない!」という言葉の意味が変わってきます。その言葉は、遺伝的に努力を継続しにくい傾向を持った子どもに向かって言っている可能性があるのです。

叱責よりも、その子が努力しやすくなる環境を整える方が、はるかに効果的です。具体的な方法は、この記事の後半で整理します。


教科によって遺伝の影響は違う

 教科ごとに遺伝と環境の影響の割合が異なることを示す概念イラスト

ここで、一つ意外な話をします。

安藤先生の著書『なぜヒトは学ぶのか』(講談社現代新書、2018年、第5章)では、日本で1972年に実施された双生児研究(副島・中嶋の研究)が紹介されています。この研究では、中学生の教科別成績において、数学は他教科と比べて遺伝の影響が比較的小さく、環境要因の影響が大きい傾向が示されています。

ただし、これは約50年前の日本の特定サンプルに基づく結果です。注意しなければならない点がいくつかあります。

まず、当時と現在では教育制度も学習環境も大きく異なること。次に、サンプル数や測定方法の違いによって結果は変わりうること。安藤先生自身も「日本の研究はやや古い」と述べています。

それでも、「数学=才能がすべて」という思い込みを見直す一つの根拠にはなります。数学だけは生まれつきのセンスで決まる、という考えは、少なくともこのデータからは支持されません。

教科ごとの傾向を整理すると、次のようになります。安藤先生が紹介する研究をベースにしていますが、数値は研究・年代・測定法によって変動するため、固定した数字としてではなく、大まかな傾向として読んでください。

教科遺伝の影響(傾向)環境の影響(傾向)ポイント
国語・読解中程度中~大読書習慣など家庭環境が効きやすい
数学比較的小さい傾向比較的大きい傾向古いデータだが、環境の設計余地が大きい可能性
英語中程度中~大学習環境の影響が出やすい
理科中程度中程度知的好奇心(遺伝的影響あり)との関連も
社会中程度中~大家庭での会話・読書の影響が出やすい

この表から読み取るべき最も重要なことは、どの教科も環境の影響がゼロではないという点です。「才能がないから無理」と結論づける前に、環境面から見直す余地は必ずあります。


遺伝の影響は年齢とともに強まる

年齢とともに遺伝の影響が強まることを成長段階で表したイラスト

もう一つ、親として知っておきたい事実があります。

知能に対する遺伝の影響は、年齢とともに強まる傾向が報告されています。Haworthら(2010年、Molecular Psychiatry)の研究では、次のような数字が示されています。

  • 児童期:遺伝の影響 約41%
  • 青年期:約55%
  • 成人期初期:約66%

つまり、子どもの頃は環境の影響が比較的大きいけれど、成長するにつれて本人の遺伝的特性がより強く表れてくるということです。

「小さい頃は塾に通わせたら成績が上がったのに、中学・高校になったら効果が薄れた」。こういう経験がある方もいるのではないでしょうか。それは子どもが怠けるようになったのではなく、発達に伴って遺伝的な特性がより前面に出てきた結果かもしれません。

裏を返せば、遺伝の影響が相対的に小さい幼少期・児童期こそ、環境への投資が最も効果を発揮しやすい時期だということです。

何をどう工夫するかによって結果が変わりやすいのは、むしろ子どもが小さいうちです。後の方で具体的な行動を整理しますが、ここで一つだけ先に言っておくと、「もう中学生だから手遅れ」ということはありません。環境の影響がゼロになるわけではないからです。ただ、早い時期の方が効果が出やすいという傾向は覚えておいて損はありません。


「親が勉強苦手なら子どもも苦手」とは限らない

親の遺伝子の組み合わせによりきょうだいでも異なる素質を持つことを表すイラスト

「自分が勉強できなかったから、子どもも無理だろう」。

こう感じている方がいるかもしれません。しかし、これは科学的に正確ではありません。

安藤先生の説明によると、同じ両親から生まれるきょうだいの間でも遺伝的な差は相当に大きいのです。これは、両親の遺伝子の組み合わせ方が子どもごとに毎回異なるためです。生物学的には「減数分裂」と「独立の法則」と呼ばれる仕組みで、親が持っている遺伝子のどの部分が子どもに受け継がれるかは、毎回ランダムに近い形で決まります。

つまり、親の遺伝子を見ても、子どもの遺伝的素質を正確に予測することはできません。

実際、優秀な親の子が必ずしも優秀とは限らず、勉強が苦手だった親の子が飛び抜けて伸びることもあります。これは珍しい例外ではなく、遺伝の仕組みからすれば自然なことです。

親の学歴や成績で、子どもの可能性を決めつけることはできません。


「学校の勉強」だけが学びではない

遺伝が関係している中で勉強している子どものメタファー

ここまで読んで、「結局、遺伝で学力が左右されるなら、できない子はどうすればいいのか」と思った方もいるかもしれません。

ここで立ち止まりたいのは、「学力」という言葉が暗黙のうちに「学校のテストの成績」を指していることです。

私自身がそうでした。学校の勉強はどれだけ努力しても成績に結びつきにくかったのに、運動は特に意識しなくても自然とできた。これは「怠けていた」のではなく、自分の得意な領域が座学ではなかったということです。

「学校の成績がいい」とは、現在の学校教育のスタイルに適合しているということに過ぎません。座って聞いて、読んで書いて、テストで測る。このスタイルに合う子もいれば、合わない子もいる。合わないことは、能力がないこととは違います。

安藤先生はこう述べています。

「私たちは一人一人異なった遺伝的スタイルを持って、他の人が想像もつかないような独自性を発揮しています。(中略)0.1%違うから、他の人と同じようには感じたり考えたりできず、理解しにくいのです」(安藤寿康『なぜヒトは学ぶのか』p.270)

体を使って学ぶことが得意な子もいます。図鑑を眺めることで知識を吸収する子もいます。人と話しながら考えがまとまる子もいます。

一つの物差しで測れないことは、価値がないこととは違います。


親が今日からできること

散らかった部屋と整頓された部屋の対比イラスト。家庭環境が子どもの学力に与える影響を示すイメージ

遺伝は変えられません。しかし環境は変えられます。

ここからは、行動遺伝学の知見を踏まえて、親が今日から変えられることを具体的に整理します。「お金がかかること」と「お金がかからないこと」、「すぐできること」と「少し時間がかかること」を分けて書きますので、自分の家庭に合うものから取り入れてみてください。


すぐにできること(お金はかからない)

家の中の「混乱度」を下げる

関連研究では、家庭内の混乱度(散らかり、騒音、不規則な生活リズム)と子どもの学校成績との間に負の関連が報告されています(Hanscombe et al., 2011, Journal of Child Psychology and Psychiatry)。因果関係の詳細は研究によって解釈が分かれますが、学習環境として整えることに価値があることは確かです。

安藤先生もこう述べています。

「学校の成績を良くしたいと思ったら、直ちに親子で相談し、協力して家の中を整理整頓、規則正しい生活をするよう、心を改めて頑張ってください」(安藤寿康『なぜヒトは学ぶのか』p.186)

具体的には、次のようなことです。

リビングのテレビやスマートフォンをつけっぱなしにしない。子どもの就寝時間と起床時間をなるべく一定にする。勉強する場所を物理的に片付ける。

どれも特別なことではありません。しかし、研究が示しているのは、こうした「当たり前のこと」が成績と関連しているという事実です。

声かけを変える

「勉強しなさい」という言葉を、「一緒に本を読もうか」に変えてみる。「成績が悪い」と責めるのではなく、「何が好き?」「どういうやり方だとやりやすい?」と一緒に探す。

安藤先生の研究では、親が図書館や本屋に連れて行ったり、読み聞かせをしたり、家庭に本がある環境を整えたりすることと、子どもの読書行動や読書への好意との関連が報告されています(安藤, 1996, 発達心理学研究)。家庭の読書環境を整えることには意味があります。

読書が好きになれば、国語だけでなく、社会や理科の文章問題にも波及します。直接「成績を上げる」ことを目指すよりも、読書を楽しむ土壌を作る方が、長い目で見ると効果が大きいかもしれません。

「努力しろ」をやめる

この記事でここまで見てきたように、努力を継続できるかどうか自体に遺伝の影響があります。「努力しろ」という叱責は、効果が薄いだけでなく、子どもの自己評価を下げるリスクがあります。

「努力しろ」の代わりに、「努力しやすい仕組み」を一緒に作る。この発想の切り替えが、行動遺伝学の知見から導かれる最も実践的な方針です。

例えば、勉強を始めるハードルを下げる。「毎日1時間勉強する」ではなく、「毎日5分だけ教科書を開く」から始める。5分が続けば、自然と10分になり、15分になります。最初のハードルを限界まで低くすることが、努力しにくい傾向を持つ子どもにとって最も効果的な工夫です。


少し工夫がいること

子どもの「学び方の向き不向き」を観察する

座学が合わない子には、別のアプローチを試してみてください。

体を動かしながら覚える子もいます。歩きながら英単語を音読する方が、座って書き取りをするよりも頭に入る子は珍しくありません。図鑑や動画で視覚的に学ぶ方が得意な子もいます。人に説明させることで初めて知識が定着するタイプの子もいます。

「学校と同じ方法で家でも勉強させる」ことが最適とは限りません。むしろ、学校で合わなかった方法をそのまま家で繰り返すことが、成績の伸び悩みの原因になっている場合もあります。

子どもがどんなときに集中しているか、どんな活動のときに楽しそうにしているか。日常の中で観察してみてください。それが、その子に合った学び方を見つける手がかりになります。

教科ごとに戦略を変える

先ほどの教科別データを参考に、環境の設計余地が大きい教科から手をつけるのは合理的な考え方です。

特に数学は、古いデータではありますが環境の影響が大きいとされており、家庭での学習環境の整備が成果につながりやすい可能性があります。「数学は才能だから」と最初から諦めてしまうのは、もったいないことかもしれません。

国語や社会は、家庭での読書習慣や会話の量が影響しやすい教科です。特別な教材を買わなくても、食卓でニュースの話をする、一緒に図書館に行く、といったことが学びにつながります。

経済的制約がある場合

塾に通わせる余裕がない場合、スタディサプリのような比較的低価格なオンライン学習サービスも選択肢の一つになります。テクノロジーの進化が、費用と教育の質の関係を少しずつ変えつつあります。(料金は変動しますので、最新の公式サイトでご確認ください。)

ただし、これはあくまで選択肢の一つです。オンライン学習サービスがすべての子どもに合うわけではありませんし、サービスを使うこと自体が目的ではありません。大事なのは、経済的な制約があっても「できることがゼロではない」ということです。

教育格差の構造的な問題(経済格差・情報格差・文化資本の差)と、それに対して社会全体や政策レベルで何ができるかについては、シリーズの別記事で扱っています。
「教育格差とは?定義・原因・日本の実態をデータで解説」
「努力だけでは説明できない――教育格差が止まらない構造的理由」


意識を変えること(お金はかからない。でも一番難しい)

「もっと努力しろ」と「才能がないから仕方ない」。この二つの間を行ったり来たりしている方は多いと思います。

しかし、ここまで見てきたように、どちらも不正確です。遺伝的な影響はある。それは事実です。しかし、環境で変えられる部分も確実にある。それも事実です。

大事なのは、この二つの事実を同時に受け入れることです。

「この子の遺伝的素質が、どんな環境で一番活きるか」を一緒に探す。成績を上げることだけがゴールではありません。学校の成績は、現在の学校教育のスタイルに適合しているかどうかを測っているに過ぎません。子どもの価値や可能性の全体を測るものではありません。

「うちの子は勉強ができない」と感じたとき、それは「うちの子は、今の学校のやり方には合っていない」という意味かもしれません。そして、合っていないことと、能力がないことは、まったく別の話です。


遺伝は「人生の可能性」を閉じるものではない

整った家庭環境で親子が一緒に本を読んでいる温かいイラスト

最後に、安藤先生の言葉を引用します。

「行動遺伝学が『それは遺伝的限界かもしれない、だから諦めていいんだよ』とささやいてくれたとしても、あなたにはどこまでも希望を失わないで努力し続ける『権利』があります。そもそもそれほどの思いがあるのであれば、そのような思いを持ったこと自体があなたの何らかの遺伝的才能ですから、何か意味があると考えるべきでしょう」(安藤寿康『なぜヒトは学ぶのか』p.217)

行動遺伝学が教えてくれるのは「諦め」ではありません。「正確な理解」です。

遺伝的な影響がある。それは事実です。しかし、その事実を知ることは、子どもを責める理由にも、可能性を閉じる理由にもなりません。

変えられないものを受け入れ、変えられるものに全力を注ぐ。子どもの「光る部分」がどこにあるのかを、一緒に探す。

それが、この学問が私たちに示してくれる親としての姿勢だと思っています。

参考までに。それでは!

著:安藤 寿康
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よくある質問(FAQ)

勉強へのやる気が出ない子どものイラスト。努力できるかどうか自体が遺伝の影響を受けることを示すイメージ

Q. 遺伝が40~60%なら、もう努力しても意味がない?

そんなことはありません。遺伝率は「集団全体の個人差の原因の内訳」であり、「あなたの子どもの成長の上限」ではありません。遺伝的素質があっても学習しなければ開花しませんし、環境を整えることで、持っている素質をより引き出すことができます。

Q. 親が勉強苦手だと、子どもも絶対に苦手になる?

なりません。同じ両親から生まれる子どもの遺伝的バリエーションは非常に大きく、親の成績から子どもの素質を正確に予測することはできません。勉強が苦手だった親の子どもが、全く違う分野で力を発揮するケースは珍しくありません。

Q. 数学が苦手なのも遺伝?

安藤先生が紹介する日本の古い双生児データでは、数学は他教科と比べて環境の影響が大きい傾向が示されています。データの古さには注意が必要ですが、「数学=生まれつきの才能」という思い込みを見直す根拠にはなります。家庭での学習環境を整える価値が特に大きい教科と言えるかもしれません。

Q. 「勉強しなさい」と言っても聞かないのはなぜ?

性格特性や自制心には遺伝の影響があることが研究で示されています。「勉強しなさい」と繰り返しても変わらない場合、その子の気質に合った方法を探す方が効果的です。叱責を繰り返すよりも、「どうすれば机に向かいやすくなるか」を一緒に考える方向に切り替えてみてください。

Q. 努力できない性格も遺伝する?

遺伝の影響を受けることは研究で示されています。ただし、「遺伝するから変わらない」という意味ではありません。環境や仕組みの工夫で、努力しやすくなる条件は作れます。「努力できない子を責める」のではなく、「努力しやすい環境を一緒に作る」方向に発想を切り替えることが、行動遺伝学の知見から導かれる実践的な方針です。

Q. 教育格差の問題と、この記事の話はどうつながるの?

この記事は「個人と家庭のレベルで何ができるか」に焦点を当てています。教育格差がなぜ社会構造として再生産されるのか、遺伝と環境がどう絡み合って格差を「自然なもの」に見せてしまうのかについては、別の記事で詳しく解説しています。


参考文献・参考資料

安藤寿康先生の著書(主要参照文献)

  • 安藤寿康『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』講談社現代新書、2018年
  • 安藤寿康『能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ』講談社ブルーバックス、2023年
  • 安藤寿康『教育は遺伝に勝てるか?』朝日新書、2023年

著者情報の確認

  • 安藤寿康先生のKAKEN研究者情報 https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000030193105/

本文で参照した国際研究

  • Silventoinen, K. et al. (2020). “Genetic and environmental variation in educational attainment: an individual-based analysis of 28 twin cohorts.” Scientific Reports, 10, 12681.
  • Rimfeld, K. et al. (2018). “The stability of educational achievement across school years is largely explained by genetic factors.” npj Science of Learning, 3, 16.
  • Haworth, C.M.A. et al. (2010). “The heritability of general cognitive ability increases linearly from childhood to young adulthood.” Molecular Psychiatry, 15, 1112–1120.
  • Vukasović, T. & Bratko, D. (2015). “Heritability of personality: A meta-analysis of behavior genetic studies.” Psychological Bulletin, 141(4), 769–785.
  • Hanscombe, K.B. et al. (2011). “Chaotic homes and school achievement: a twin study.” Journal of Child Psychology and Psychiatry, 52(11), 1212–1220.

家庭の読書環境に関する研究

  • 安藤寿康 (1996)「子どもの読書行動に家庭環境が及ぼす影響に関する行動遺伝学的検討」『発達心理学研究』7(2), 170-179.

遺伝率の概念について

  • MedlinePlus Genetics, NIH. “What is heritability?” https://medlineplus.gov/genetics/understanding/inheritance/heritability/

教育格差の構造的原因についての関連記事


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