アマテラス粒子とは?小さな粒子に野球ボールほどのエネルギーがある謎【中学生でも簡単にわかる】

宇宙から来た一つの粒子が地球の大気で多数の粒子へ広がり、広い範囲に並ぶ地表の検出器へ降り注ぐ様子のイラスト 雑学・教養
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勢いよく飛んでくる野球のボールは、「運動エネルギー」を持っています。

では、目に見えないほど小さな粒子が、たった1個で、そのボールと同じくらいのエネルギーを持っていたらどうでしょうか。

SFのような話ですが、そんな粒子が2021年、実際に宇宙から地球へ飛んできました。「アマテラス粒子」と呼ばれています。

名前は付いていますが、どんな種類の粒子だったのか、宇宙のどこから来たのかは、まだわかっていません。観測から推定されたエネルギーは、桁違いの大きさでした。

でも、宇宙には太陽や、星の大爆発があります。それだけすごいことが起きる場所なら、エネルギーの大きな粒子があっても不思議ではない気もします。

それなのに、なぜこの粒子は大きな謎になっているのでしょうか。

アマテラス粒子って、そもそも何?

私たちの体も、机も、野球のボールも、「原子」という小さな単位が集まってできています。原子の中心には「原子核」があり、その周りに電子があります。

原子核をつくっているのは、「陽子」と「中性子」という粒子です。陽子はプラスの電気を持ち、中性子は電気を持っていません。いちばん単純な水素の原子核は陽子1個ですが、炭素や鉄の原子核は、複数の陽子と中性子からできています。

宇宙では、こうした陽子や原子核が、高いエネルギーを持って飛び回っています。宇宙からやってくるこれらの粒子は、「宇宙線」と呼ばれます。

「線」と聞くと光線のようなものを想像しますが、この記事で考えるのは、陽子や原子核のような粒子です。

アマテラス粒子は、2021年5月27日に観測された、1個の宇宙線の愛称です。「アマテラス」という新しい種類の粒子が発見された、という意味ではありません。

研究チームが付けた名前は、日本神話の太陽神に由来します。太陽から来たという意味ではありません。陽子だったのか、もっと重い原子核だったのかも、まだ決まっていないのです。

野球ボールと同じエネルギーって、どういうこと?

飛ぶ野球ボールと小さな粒子を左右に並べ、同じ長さの橙色の棒で両者のエネルギー量が近いことを示す比較のイラスト

アマテラス粒子のエネルギーは、約40ジュールと推定されました。ジュールは、エネルギーの量を表す単位です。

数字だけではわかりにくいので、野球のボールと比べてみましょう。重さ約145グラムのボールを時速84キロメートルほどで投げると、運動エネルギーが約40ジュールになります。

ボールのほうには、膨大な数の原子が集まっています。一方、アマテラス粒子は、たった1個。それほど小さな粒子が、飛んでいるボール全体に匹敵するエネルギーを持っていたのです。

ここで比べているのは、あくまでエネルギーの量です。粒子が人に当たったら、野球ボールが当たるのと同じことが起きる、という意味ではありません。大きさも、物質とのぶつかり方も違います。

見えない粒子1個を、どうやって調べたの?

宇宙線が大気中の原子核にぶつかって粒子の雨を生み、砂漠に並ぶ検出器と研究者が調べる観測の流れのイラスト

そんなに小さな粒子を、どうやって見つけたのでしょうか。

実は、アマテラス粒子そのものを地上で捕まえたわけではありません。

宇宙線が地球の大気に入り、空気中の原子核とぶつかると、別の粒子が生まれます。さらに反応が続き、大量の粒子が広い範囲へ降り注ぎます。この現象が「空気シャワー」です。水のシャワーではなく、粒子のシャワーということですね。

この観測を行ったのは、日本やアメリカなどの研究者が協力する「テレスコープアレイ実験」です。装置があるのは、アメリカ・ユタ州の砂漠。当時の地表の観測網には、約700平方キロメートルにわたって、507台の検出器が置かれていました。検出器は、飛んできた粒子を記録する装置です。

これほど広い場所で調べるのは、非常に高いエネルギーの宇宙線が、めったに来ないからです。2023年の論文によると、アマテラス粒子よりエネルギーの低い約16ジュール以上の宇宙線まで含めても、1平方キロメートルに100年で1個も来ないほどです。

アマテラス粒子が起こした空気シャワーは、507台のうち23台に記録されました。

研究者は、どの装置に、いつ、どれくらいの信号が届いたかを調べます。その結果を、空気シャワーが広がる様子の計算と比べることで、もとの粒子のエネルギーや、飛んできた方向を推定しました。

つまり、粒子そのものを捕まえる代わりに、大気中で起こした反応の記録から、もとの粒子について調べたのです。約40ジュールという値にも、測定や計算に伴う不確かさがあります。小数点以下までぴったり決まった数字ではありません。

ただし、エネルギーを推定できることと、粒子の種類を見分けられることは別です。陽子だったのか、鉄などの原子核だったのかを判断するには、さらに別の手がかりが必要になります。

太陽なら、それくらいの粒子を作れそうなのに

太陽は、地球を明るく照らし、暖めています。それだけのエネルギーがあるなら、小さな粒子1個にも大きなエネルギーを与えられそうに思えます。

でも、天体全体が放つエネルギーと、粒子1個に与えられるエネルギーは、分けて考える必要があります。

太陽にも、粒子にエネルギーを与える働きはあります。太陽の大気で起こる爆発的な現象「太陽フレア」や、大量のガスを噴き出す活動などが、粒子の加速に関わります。ここでいう加速は、粒子の運動エネルギーを高めることです。

それでも、強い太陽の活動で生じる高エネルギーの陽子と比べて、アマテラス粒子は桁違いのエネルギーを持っています。NASAの資料で紹介されている、特に強い太陽粒子現象の陽子と比べても、数百億倍ほど、あるいはそれ以上になります。

太陽が弱いという話ではありません。「強力な太陽だから、この粒子も作れるはず」とは言えないのです。

星が大爆発しても、加速には限界があるの?

磁場を表す曲線の中で粒子が衝撃波の境目を何度も繰り返し行き来し、最後に外へ抜けていく曲がった道筋のイラスト

では、太陽よりも激しい、星の大爆発ならどうでしょうか。

大きな星は、一生の最後に「超新星爆発」を起こすことがあります。爆発で大量のガスが広がり、周囲のガスを押しのけると、圧力や流れの速さが急激に変わる境目ができます。これを「衝撃波」と呼びます。

爆発の跡である「超新星残骸」では、この衝撃波が粒子の加速に関わります。

ただし、爆風で粒子を一度だけ押し飛ばす、という単純な話ではありません。

ここで重要になるのが「磁場」です。磁石の周りで磁力が働くように、宇宙にも磁場があります。電気を帯びた粒子が磁場の中を進むと、進む向きが曲げられることがあります。

超新星残骸の周りでは、磁場の乱れによって粒子の向きが変わります。その結果、衝撃波の前後を何度も行き来し、ガスの流れから繰り返しエネルギーを受け取ることがあります。これが「衝撃波加速」という仕組みです。

加速が進み、粒子が光の速さに非常に近づくと、エネルギーが大きく増えても、速さの増加はごくわずかになります。ここで注目したいのは、速さの変化よりも、粒子が受け取るエネルギーの大きさです。

では、衝撃波の前後を何度でも行き来させれば、エネルギーを増やし続けられるのでしょうか。

ところが、同じ種類の粒子なら、エネルギーが高くなるほど、磁場で曲げにくくなります。やがて、加速される場所から逃げ出しやすくなってしまいます。

十分にエネルギーを与えるには、粒子が逃げ出す前に、何度もエネルギーを受け取れるだけの時間が必要です。その間にエネルギーを失うこともあるので、失う分を上回るエネルギーを与えなければなりません。磁場の強さや、広がっている範囲も関係します。

超新星残骸で陽子が加速されていることには、観測の証拠があります。しかし、通常の超新星残骸で考えられている条件だけでは、アマテラス粒子ほどのエネルギーを説明するのは難しいとされています。

大切なのは、爆発全体がどれほど大きいかだけではありません。粒子1個を、その場所でどこまで加速できるかが問題なのです。

遠くからは届きにくいのに、出発地が見当たらない

宇宙の光を表す青緑の波の間を進む同じ大きさの粒子と、次第に小さくなる橙色の輪でエネルギー損失を示した図解のイラスト

粒子をそこまで加速できる天体が、宇宙のどこかにはあるかもしれません。それなら、遠くまで探せば見つかるのでしょうか。

ここで、もう一つの問題が出てきます。宇宙には、目には見えないものも含め、さまざまな光が広がっています。極端に高いエネルギーの粒子は、旅の途中でそうした光と反応し、エネルギーを失うことがあります。原子核の一部がはがれて、別の核になることもあります。

つまり、どんなに遠くからでも、約40ジュールのエネルギーを保って届くわけではありません。どこまで遠くから来られるかは、粒子の種類や出発時のエネルギーによって変わります。

そのため、研究者は、宇宙全体のどこでも自由に候補を探せるわけではありません。地球まで高いエネルギーを保って届く範囲で、出発地を探す必要があります。

ところが、アマテラス粒子が飛んできた方向を調べても、有力な発生源はすぐには見つかりませんでした。その方向には、周囲より銀河が少ない「ローカルボイド」と呼ばれる領域があります。銀河は、星やガスなどが大量に集まったものです。ローカルボイドにも銀河はありますが、その数が少ないのです。

「それほど遠くからは届きにくい。それなのに、来た方向には有力な出発地が見当たらない」。加速の難しさに加えて、これも大きな謎なのです。

来た方向が、出発地の方向とは限らない

磁場で曲がって地球へ届く橙色の粒子の道すじと、到着方向を逆に延ばした紺色の点線が出発地を外れる様子のイラスト

来た方向に有力な天体が見当たらなくても、出発地は、観測された方向とは別の場所にあるのかもしれません。

ここで、磁場がもう一度登場します。

陽子や原子核は電気を帯びているので、地球へ来る途中で進む向きを曲げられます。地球で測れたのは、長い旅の最後に、どちらから入ってきたかです。その方向へまっすぐ線を延ばしても、出発地に戻れるとは限りません。

角を曲がって学校に来た友達を思い浮かべてください。校門に入った向きがわかっても、その向きを逆に延ばした先に、友達の家があるとは限りませんよね。

宇宙線の場合は道の角ではなく、途中の磁場によって向きが変わります。同じエネルギーなら、陽子と鉄の原子核のように、持っている電気の量が違う粒子では曲がり方も変わります。

どんな粒子だったのか、どんな磁場を通ったのかがわかれば、来た方向とは別の場所に出発地を見つけられるかもしれません。

「そこから飛んできたと考えれば、方向もエネルギーも説明できる」。そんな天体を探すには、粒子が途中で失ったエネルギーと、曲がってきた道筋を、合わせて調べる必要があるのです。

答えに近づくには、何を調べればいいの?

左側の領域から地球へ届く、曲がる宇宙線とまっすぐ進むニュートリノ、波で描いた光の三つの手がかりを表す図解のイラスト

まず必要なのは、同じように高いエネルギーを持つ宇宙線を、もっと多く観測することです。

陽子のような軽い粒子が多いのか、鉄のような重い原子核が多いのか。特定の方向から多く来ているのか。記録が増えれば、1個の観測だけではわからなかった傾向が見えてくるかもしれません。

宇宙の磁場について調べることも重要です。通ってきた場所の磁場が詳しくわかれば、粒子の道筋を考える助けになります。

さらに、「ニュートリノ」という別の粒子も手がかりになります。宇宙で高エネルギーの陽子などが物質や光と反応すると、その過程でニュートリノが生まれることがあります。

ニュートリノは電気を持たないため、磁場で向きを曲げられません。届いた方向を調べると、粒子が高いエネルギーを得たり、ほかの物質と反応したりしている場所を探る助けになるのです。

もちろん、ニュートリノが見つかっただけで、アマテラス粒子の出発地もわかったことにはなりません。宇宙線、ニュートリノ、天体から届く光。それぞれの情報を合わせて調べます。

なお、2021年のアマテラス粒子を、もう一度観測し直すことはできません。残された記録を詳しく調べ直したり、新しい宇宙線と比べたりしながら、答えに近づこうとしているのです。

まとめ:小さな粒子が、宇宙への大きな問いになった

アマテラス粒子の驚きは、たった1個の粒子が、飛んでいる野球ボールほどのエネルギーを持っていたことです。

太陽や星の爆発が強力でも、そのエネルギーを粒子1個にどこまで与えられるかは別の問題です。加速する場所から逃げるまでに、途中で失う分を上回るエネルギーを、十分に受け取る必要があります。

さらに、高いエネルギーを保って届くには、発生源の距離にも制約があります。それなのに、来た方向には有力な出発地がすぐには見つかりませんでした。磁場で曲がってきた可能性もあり、地球に届いた方向だけでは答えを決められないのです。

まだ答えがわからないからこそ、何を観測すれば手がかりになるのかを考える。アマテラス粒子は、宇宙がどんな仕組みで粒子を極限まで加速するのか、私たちに問いかけています。

*関連記事

南極の氷で、ほとんど見えないニュートリノをどうやって調べるのでしょうか。観測の仕組みは、こちらの記事で解説しています。
→【中学生でも簡単にわかる】南極の氷で宇宙がわかる?ニュートリノと2026年ノーベル物理学賞

発生源の候補や、鉄より重い原子核を考える研究など、さらに詳しい話はこちらです。
→「アマテラス粒子」はどこから来た? 太陽や超新星から考える宇宙線の謎

参考資料

資料確認日:2026年10月14日。

東京大学宇宙線研究所ほか「テレスコープアレイ実験史上最大のエネルギーをもつ宇宙線を検出」(2023年11月24日。日本語の共同発表):https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/14465/

Telescope Array Collaboration, “An extremely energetic cosmic ray observed by a surface detector array”(Science、2023年。論文の公開版):https://arxiv.org/html/2311.14231v1

NASA Technical Reports Server, “Probability Estimates of Solar Particle Event Doses During a Period of Low Sunspot Number for Thinly-Shielded Spacecraft and Short Duration Missions”(2016年。公開要旨の太陽粒子エネルギーに関する説明):https://ntrs.nasa.gov/citations/20160003092

NASA, “Interpreting Realtime ACE Data From Space”(太陽由来の高エネルギー粒子と磁場の解説):https://cosmicopia.gsfc.nasa.gov/acedata.html

NASA, “Fermi Proves Supernova Remnants Produce Cosmic Rays”(2013年2月14日。超新星残骸での陽子の加速):https://svs.gsfc.nasa.gov/11209/

Pierre Auger Observatory, “The Mystery of High-Energy Cosmic Rays”(超新星の衝撃波と最高エネルギー宇宙線の加速の違い):https://www.auger.org/outreach/cosmic-rays/cosmic-ray-mystery

Fermilab/SLAC, symmetry, “Researchers demonstrate ‘accelerator on a chip’”(2013年9月30日。光速に近い粒子でも、エネルギーをさらに高められることの説明):https://www.symmetrymagazine.org/article/september-2013/researchers-demonstrate-accelerator-on-a-chip?language_content_entity=und

CERN, “How an accelerator works”(粒子へのエネルギーの受け渡しと、磁場による進路の制御):https://home.cern/how-accelerator-works/

IceCube Neutrino Observatory, “IceCube: Detector and Science”(ニュートリノの性質と宇宙線の研究):https://icecube.wisc.edu/science/icecube/

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