粒子加速器って何?小さな粒をぶつけて、物質の秘密を探る【中学生でも簡単にわかる】

「粒子をぶつけて何がわかる?」という見出しと、輪になった加速器の衝突点から粒子が飛び出す様子。記事全体の問いを表した表紙。 雑学・教養
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世界には、一周27キロメートルもある大きな実験装置があります。

そこでぶつけているのは、目に見えないほど小さな粒です。

そんなに小さなもののために、なぜ巨大な装置が必要なのでしょうか。そもそも、ぶつけて何が分かるのでしょうか。

粒子加速器は、小さな粒にエネルギーを与える装置です。その粒をぶつけ、飛び出してきたものを調べると、物質のつくりや、粒どうしに働く力を探れます。衝突のエネルギーから、新しい粒子が生まれることもあります。

まず、何をぶつけているの?

私たちの体も、水も、空気も、原子という小さな粒でできています。

原子の中心には「原子核」があり、その周りに「電子」があります。原子核をつくる粒の一つが「陽子」です。

ここで出てきた電子や陽子などを、まとめて「粒子」と呼びます。

加速器では電子や陽子などの粒子を使います。原子を丸ごと小さなボールのように投げている、というわけではありません。

たとえば、スイスとフランスの国境付近にある大型ハドロン衝突型加速器、略してLHCでは、陽子どうしを衝突させる実験を行います。

でも、見えないほど小さな粒をぶつけて、どうやって物質の中身を調べるのでしょうか。

粒をぶつけると、見えない中身が分かる?

その考え方がよく分かる、昔の実験があります。

1909年、ラザフォードのもとで研究していたガイガーとマースデンは、とても薄い金の膜に小さな粒を当てました。

使ったのは、ヘリウムの原子の中心に当たる「原子核」です。風船に入れるようなヘリウムの気体を吹きつけたのではありません。放射性物質の原子核が自然に変化するときに飛び出す、ヘリウムの原子核を利用しました。

大半の粒は金の膜を通り抜けました。ところが、ごく一部は大きく進路を変え、後ろへ戻ってきました。

全部がそのまま通るのでも、全部が跳ね返るのでもない。この違いに、中身を知る手がかりがあったのです。

1911年、ラザフォードはこうした結果をもとに、原子の質量の大部分と電荷がごく小さな中心部に集中しているという考えを示しました。この中心部が原子核です。現在では、原子核がプラスの電荷を持つことが分かっています。

「正の電荷」は電気のプラスの性質です。同じプラスどうしには、反発する力が働きます。

原子の中で、原子核が占める範囲はごくわずかです。金の原子核も、飛んできたヘリウムの原子核もプラスです。中心から離れたところを通る粒は大きく曲がりませんが、原子核の近くを通る粒は強く進路を変えられます。硬い壁にぶつかったから跳ね返った、という説明ではないんですね。

プラスのヘリウム原子核が金の原子核から離れた場所では直進し、近くでは反発して曲がり、一部が戻る様子を示す模式図。
線の本数は実際の割合を表しません。

この実験は現代の加速器を使ったものではありません。それでも、「粒を当てて、その後の動きから見えない構造を探る」という考え方を示してくれます。

手で押せない粒子を、どうやって走らせるの?

電場で粒子にエネルギーを与える直線状の装置と、磁石で進む向きを曲げる様子を左右に並べ、二つの役割を比較した図。

陽子や電子は、小さすぎて手でつかめません。

そこで利用するのが、粒子の持つ電気の性質です。陽子はプラス、電子はマイナスの電荷を持っています。

電荷を持つ粒子には電気の力を働かせられます。この力が働く空間を「電場」といいます。加速器は電場を使って粒子を押し、エネルギーを与えます。

エネルギーは、物を動かしたり、変化を起こしたりするもとになる量です。動いているボールが物に当たると相手を動かせるように、動く粒子もエネルギーを持っています。

大きな加速器には、電場をつくる装置が並んでいます。粒子が通るタイミングに合わせて電場を変え、何度もエネルギーを与えます。ブランコの動きに合わせて押すと、少しずつ大きく揺れるのと似ています。

一方、進む向きを曲げたり、粒子の流れを細くまとめたりするのは、磁石の役目です。

  • 電場で、粒子にエネルギーを与える
  • 磁石で、進む道を曲げたり、流れをまとめたりする

この二つを組み合わせて、粒子を狙った場所へ運びます。

小さな粒子なのに、なぜ一周27キロもあるの?

磁石の強さが同じ場合、エネルギーの低い陽子は小さな円、高い陽子は大きな円を描く比較。高いエネルギーほど緩やかに曲がる模式図。

LHCは一周約27キロメートルの輪になっています。

輪にすると、粒子を何度も周回させ、同じ加速の装置を通るたびにエネルギーを与えられます。

ただし、エネルギーの高い陽子の進路を曲げるには、強い磁石が必要です。同じ強さの磁石で曲げるなら、エネルギーが高いほど、カーブを緩やかにしなければなりません。

大きな輪は、高いエネルギーの粒子を周回させるために役立つのです。なお、LHCのトンネルはもともと別の加速器のためにつくられたものを利用しています。27キロという長さがこの理由だけで決まったわけではありません。

粒子が走る管の中は、空気をできるだけ取り除いた真空にしてあります。途中で空気の粒にぶつかるのを減らすためです。

LHCでは二つの陽子の流れを反対向きに走らせ、決められた場所で交差させます。

とはいえ、交差すれば全部が衝突するわけではありません。粒子は非常に小さいので、多くはすれ違います。そこで、磁石で流れを細く絞り、衝突が起こりやすくなるようにします。

ぶつけると、もとの粒子より重い粒子が生まれる?

衝突の面白さは、中身を調べられることだけではありません。

衝突に使われたエネルギーの一部が、新しく生まれる粒子の質量になることがあります。

質量は、物の動かしにくさなどに関わる量です。日常では「重さ」とまとめて呼びがちですが、理科では区別します。ここからの「重い粒子」は、質量が大きい粒子という意味で読んでください。

代表的な例がヒッグス粒子です。その質量は陽子のおよそ130倍もあります。

「陽子をぶつけたのに、どうして陽子よりずっと重い粒子が出てくるの?」と思いますよね。

ここで数える必要があるのは、もとの粒子の質量だけではありません。加速器が与えた、動きのエネルギーもあります。その一部が新しい粒子の質量になるので、もとの陽子より重い粒子も生まれ得ます。

左右から陽子が向かう衝突点を小さな印で示し、その周囲へ粒子が飛び出す模式図。動きのエネルギーから新しい粒子が生まれる場合を表す。

陽子の中に、ヒッグス粒子が隠れていたわけではありません。また、何もないところから、材料もエネルギーもなしに生まれるわけでもありません。

もちろん、十分なエネルギーがあれば、毎回ヒッグス粒子が生まれるということではありません。いろいろな反応が起こる中から、まれに起きる反応を探す必要があります。

だから、たくさんの衝突を起こし、その結果を調べるのです。

一瞬で消える粒子を、どうやって見つけるの?

粒子を走らせる加速器とは別に、衝突の場所には「検出器」という観測装置があります。

加速器が粒子にエネルギーを与える役なら、検出器は衝突の結果を記録する役です。

検出器は飛び出してきた粒子の通り道や、持っているエネルギーなどを測ります。粒子が通ったときに生じる電気の信号や、装置に残したエネルギーを読み取ります。

でも、ヒッグス粒子は生まれてもすぐに別の粒子へ変わってしまいます。ヒッグス粒子そのものの姿を、写真のように撮れるわけではありません。

そこで、変わった後の粒子から、もとの粒子を探ります。

二つの光から、もとの粒子を考える

ヒッグス粒子が変化するパターンの一つに、二つの「光子」になる場合があります。光子は光を粒として捉えたときの一つ一つです。

調べ方は次のようになります。

  1. 検出器で、二つの光子を捉える
  2. それぞれのエネルギーと、飛んだ方向を測る
  3. 「この二つが、一つの粒子から生まれたとしたら」と考え、もとの粒子の質量を計算する

光子そのものの質量を足しているのではありません。測ったエネルギーと方向から、もとの粒子の質量を逆に求めています。

ただし、二つの光子が出たからといって、「ヒッグス粒子が見つかった」とは言えません。ほかの反応でも、二つの光子は出てくるからです。

同じ質量のところに、余分な山ができる

検出器内の二本の線に「光子」と記し、多くの測定記録から求めた質量の分布を比較する図。ほかの反応のなだらかな分布に小さな山が重なる。

そこで、たくさんの衝突について同じ計算を繰り返し、求めた質量ごとに件数を数えます。

ヒッグス粒子以外の反応による結果は、さまざまな質量のところに広がります。その上に、ヒッグス粒子から来た光子の組が加われば、ヒッグス粒子の質量に当たるあたりで、件数が余分に増えるはずです。

グラフにすると、なだらかな分布の上に、小さな山が現れるような形です。測定には誤差があるため、一点にきれいに集中するわけではありません。

研究者は、その山が偶然のばらつきではないか、装置や計算に問題はないかを調べます。二つの光子になる場合以外の反応も使い、結果が合うか確かめます。

2012年、LHCの二つの実験グループ、ATLASとCMSは、こうした測定を重ね、ヒッグス粒子と考えられる新しい粒子の発見を発表しました。その後も、性質を詳しく調べる研究が続いています。

「一回ぶつけたら見えた」という発見ではないんですね。

見たい粒子そのものではなく、反応で生まれたものを手がかりにする別の例が、南極の氷でニュートリノを調べるIceCubeの観測です。

宇宙から飛んでくる粒子の研究にも役立つ

宇宙線が大気で粒子を生み、地上の検出器へ広がる様子。別枠の衝突記録から計算資料への矢印で、加速器データを計算改善に使う関係を示す。

宇宙からも、非常に高いエネルギーを持つ粒子が地球へ飛んできます。こうした粒子を「宇宙線」と呼びます。

宇宙線が大気にぶつかると、次々に別の粒子が生まれ、地上へ広がることがあります。地上に並べた検出器で、こうして生まれた粒子を測る方法があります。もとの宇宙線が何だったのかを知るには、大気でどんな反応が起きたかを考える必要があります。

そこで、加速器で実際に粒子を衝突させたデータが役立ちます。

LHCの「LHCf」という実験では、衝突後、もとの進行方向に近い向きへ飛び出す、電荷を持たない粒子を測ります。その結果は、宇宙線が大気で起こす反応の計算方法を改善するために使います。

ただし、宇宙線のあらゆる衝突を、そのまま再現できるわけではありません。実験で確かめられる部分を増やし、宇宙線の正体を推測する精度を上げていく研究です。

大気で生まれた粒子の記録から、もとの宇宙線を調べた具体例は、アマテラス粒子の観測と、その正体に残る謎の記事で説明しています。

加速器は、ぶつけて終わりではない

今回紹介した研究の流れは、三つの段階で整理できます。

  • 粒子にエネルギーを与え、狙った場所で衝突させる
  • 検出器で、飛び出してきた粒子を測る
  • たくさんの記録を比べ、何が起きたのかを確かめる

小さな粒をぶつけると、見えない構造の手がかりが得られます。衝突のエネルギーから、ふだんは見つからない粒子が生まれることもあります。

巨大な装置をつくるのは、ただ強くぶつけたいからではありません。ぶつけた後に残る手がかりから、物質のつくりや粒子の性質を知るためなんですね。

さらに詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
→今さら聞けない粒子加速器。目に見えない粒子をぶつけて、何が分かるのか

参考にした資料

閲覧日:2026年10月19日(日本時間)。

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