子どものスマホは最新機種なのに、親の進路知識は平成のまま。「まだ中1だから」で話を終わらせる親へ

スマホで新しい学びや仕事の世界を知るきっかけを表す、子どもと本・学校・顕微鏡を配した白背景のイラスト 教育・子育て
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「将来、何になりたいの?」

「分からない」

「そうだよね。お母さんも中学1年生の頃は、何も分からなかったもん」

子どもを焦らせない、理解のある返事です。少なくとも、そう聞こえます。でも、この会話がここで終わるなら、最後の一言を少し意地悪に翻訳してみましょう。

「お母さんも中1のときは何も知らなかったから、あなたも今は何も知らなくていいよ」

言った本人に、そんなつもりはないでしょう。それでも、知らない世界を知るきっかけを一つも渡さずに話が終わってしまうなら、私は引っかかるんです。あなたが中学1年生だった頃と、今の中学1年生では、情報を手に入れる環境がまったく違うからです。

今はスマホがある。インターネットがある。生成AIまである。大学の研究室がどんな研究をしているのか。世の中にどんな仕事があるのか。好きなことを深く学ぶには、どんな進路があるのか。昔なら調べるだけでも大変だったことが、今なら自宅から探せます。

それなのに、進路の話になったとたん、数十年前の自分を基準にして「分からなくて当然」で終わらせてしまう。

何のために、子どもにスマホを渡したんですか?

連絡のため。安全のため。それで十分です。ただ、その端末は、大学の研究室にも、聞いたこともない職業の世界にもつながっています。そのことを、子どもに一度でも教えましたか。

「私も中1の頃は何も知らなかった」は、子どもを放っておく理由にならない

学校や研究、デザイン、技術を表す四つのカードを前に、まだ一つに決めず落ち着いて選択肢を眺める中学生のイラスト

最初にはっきりさせておきましょう。中学1年生に将来の職業を決めろと言っているわけではありません。13歳で人生の進路を確定させる必要なんてない。興味は変わるし、変わっていい。

ただ、親が口にする「私も分からなかった」には、性質の違う二つの話が混ざっています。一つは、将来を決められなかったこと。もう一つは、将来の選択肢を知らなかったことです。この二つは、まったく違います。

13歳で将来を決められなかったのは、年齢や経験の問題もあるでしょう。それは今の子どもも同じです。でも、選択肢を知らなかったのはどうでしょうか。

スマホが普及する前に中学生だった人なら、仕事について知るための情報源は、学校の先生、図書室の本、家族、身近な大人などが中心だったのではないでしょうか。名前すら聞いたことのない仕事には、興味の持ちようがありません。親が中学生だった頃に、さまざまな進路を知らなかったのには、当時の情報環境の制約もあったはずです。でも、今の子どもたちは違います。

将来を決めなくていいことと、将来について何も考えなくていいことは、まったく違います。

「まだ決めなくていい」は配慮です。でも、「まだ考えなくていい」で話を閉じてしまうなら、それは配慮の顔をした手抜きではありませんか。

子どもはスマホで検索している。でも、知らない言葉はどうやって検索するの?

学校の絵があるカードを親から子へ渡し、知らなかった選択肢との出会いがスマホで調べる入口になる様子のイラスト

「最近の子はスマホで動画ばかり見て、何も調べない」

そんな話を聞くことがあります。ところが、こども家庭庁の「令和7年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」を見ると、少し違う姿が見えてきます。2026年3月に公表された同調査によると、「スマートフォン」(契約していない端末は別項目として集計)でインターネットを利用する中学生1,025人のうち、86.0%が「検索・調べもの」にも使っていると回答しています。子どもたちは、ちゃんと調べているんです。ただし、この数字は毎日検索している割合でも、進路について調べている割合でもありません。

では、考えてみてください。例えば、ゲームが好きな子なら攻略方法を調べるでしょう。欲しい商品があれば、値段やレビューを調べるかもしれません。では、存在すら知らない職業についてはどうでしょう。

高専という学校を知らない子が、ある日突然「高専」と検索するでしょうか。商業高校で何を学べるのか知らない子が、いきなり「商業科 授業内容」と入力するでしょうか。高専を知らない子に「スマホがあるんだから自分で調べなさい」と言うのは、ちょっとした超能力を要求していませんか。

辞書を思い浮かべてください。辞書は、どこかで出会った言葉を引くための道具です。名前も知らない言葉を、狙って引くことはできません。辞書を買い与えただけで語彙が増えると考える親はいないのに、スマホを渡しただけで視野が広がると考えてしまう。同じ勘違いではないでしょうか。

「世の中にはどんな仕事がある?」と広く検索すれば、知らない職業に出会うことはできます。では、ここで親に聞きたいんです。

あなた自身が最後に「世の中にはどんな仕事がある?」と検索したのは、いつですか?

大人だって、知らない分野を自分から調べるにはきっかけが必要です。それなのに、13歳の子どもにはスマホさえ持たせておけば、自分から世の中の職業を調べ始めると期待する。ずいぶん都合のいい話ではないでしょうか。

動画のおすすめ欄から、偶然、新しい世界を知ることもあるでしょう。でも、子どもに進路の選択肢を広く知らせるのは、おすすめ欄の仕事ではありません。何でも調べられる道具を持っていることと、何を調べればいいか知っていることは別です。そこを区別しないまま「スマホがあるから自分で調べるでしょ」で済ませるのは、子どもを信頼しているように見えて、実際には丸投げです。

親がすべての答えを知っている必要はありません。

「こんな学校もあるんだって」

「こういう仕事もあるらしいよ」

知らなかった名前を一つ教える。それだけでも、子どもが次に検索できる言葉は増えるんです。

スマホの禁止事項は教えた。では、可能性を広げる使い方は教えたか?

こども家庭庁の同じ調査で中学生本人に聞いたところ、インターネットを利用する中学生1,199人のうち、74.5%が家庭でネット利用のルールを決めていると答えています。では、思い出してみてください。あなたの家のルールのうち、「〜するな」以外の項目はいくつありますか。

「知らない人と連絡を取るな」

「危ないサイトを見るな」

「夜遅くまでスマホを使うな」

「ゲームに勝手に課金するな」

安全のために必要なルールです。でも、そこで終わっていませんか。

危ないリンクを開かないように教えた。でも、高専という選択肢は教えていない。知らない人と連絡を取る危険性は教えた。でも、大学の研究室がインターネットで研究内容を公開していることは教えていない。

「何をしてはいけないか」はあれほど丁寧に教えたのに、「何ができるか」は一度も教えていない。

そんな家庭があるとすれば、ずいぶん不思議な教育です。スマホの取扱説明書から、注意事項だけを読み聞かせて、便利な使い方のページは破り捨てたようなものです。それで「子どもがスマホばかり見て困る」と嘆くのなら、一度、親自身の教え方も振り返ってみる必要があるでしょう。

「うちは連絡用に持たせただけ」

それなら、それで構いません。ただ、連絡用のスマホでも、高専のホームページは開けます。

「まだ中1だから」って、いつになったら考えるつもりですか?

「中学1年生から進路なんて考えなくていいでしょ」

そう言う親に聞いてみたいんです。では、いつから考えるのでしょうか。中学3年生になってから?高校受験が目の前に迫ってから、初めて世の中にどんな学校があるのか調べるつもりですか。

高校の進路には、普通科だけでなく、工業科、商業科、農業科などの専門学科や総合学科があります。中学校卒業後に入学できる高専もあれば、通信制高校という選択肢もあります。学校によって学べる内容も、その後の進学や就職の道筋も違います。

その存在を中3の秋に初めて知るのは、旅行の前日になって、ようやく行き先を調べ始めるようなものです。どこかには行けるでしょう。でも、準備できる時間は限られています。

結果的に普通科を選ぶのは、何も問題ありません。ただ、ほかの道を知ったうえで普通科を選ぶのと、ほかの道を知らずに選ぶのとでは、同じ選択でも意味が違います。中1は、進路を決めるには早いかもしれません。でも、中学校の3年間で見れば、選択肢を調べる時間がいちばん残っている学年です。

文部科学省の『中学校・高等学校キャリア教育の手引き』(2023年)では、中学1年生のキャリア発達の特徴として、将来の職業生活と今の学習の関係を考えようとすることなどが挙げられています(発達には個人差があり、固定的な標準にはできないとも明記されています)。中学1年生から将来の生き方や仕事について考えることは、学校教育でも大切にされているわけです。

では、「学校でキャリア教育をやっているなら、家庭では必要ない」と考える人に聞きます。先生に任せる前に、あなた自身は、子どもが休日に何の話を始めると止まらなくなるのか、知っていますか。

学校には学校でしか見えない子どもの姿があります。一方、家庭には、普段の暮らしの中でしか見えない姿があるはずです。好きなゲーム。夢中になっている動画。時間を忘れて調べていること。そういう「好き」を知る機会が毎日のようにあるのに、その材料まで学校任せにするつもりですか。

子どもの興味を、今まで知らなかった職業や学問につなげる。家庭で見えているその興味こそ、進路の話を始める材料です。

「ゲームばっかり!」と言う前に、エンドロールを最後まで見てみたら?

ゲームのコントローラーからペン、ヘッドホン、パソコン、吹き出しを結び、好きなものの向こうにある仕事のイラスト

子どもがゲームに夢中になっているとします。

「またゲーム? いい加減にしなさい!」

では、そのゲームを誰が作っているのか、考えたことはありますか。エンドロールのあるゲームなら、最後に制作に関わった人たちの名前が流れます。プログラマー、デザイナー、サウンド担当、品質保証、ローカライズなど、作品によってさまざまな仕事が紹介されています。ローカライズという言葉を初めて聞いた子なら、こう聞くかもしれません。

「ローカライズって何?」

ゲームを外国向けに届けるとき、言葉や表現などを、その国や地域に合わせる仕事です。すると、そこから次の疑問が生まれます。

「ゲームを翻訳する仕事ってあるの?」

「日本のゲームを海外で発売するときって、誰が作業してるの?」

「そういう仕事をするには、何を勉強すればいいの?」

ゲーム一本のエンドロールが、そのまま職業図鑑になるわけです。ゲーム会社の採用サイトや職業情報サイトを見れば、仕事内容についてさらに調べることもできます。動画だって同じです。配信者の後ろには、撮影、編集、音響、広告、システム開発など、いろいろな仕事があります。子どもが好きで見ているものには、知らなかった職業に出会う入口が隠れています。

趣味を何でも将来の仕事につなげる必要はありません。ただ、興味を持っているものがあるなら、そこから世界を広げることもできるでしょう。

「ゲームばっかり」と叱っている親自身が、そのゲームの向こう側にある仕事を一度も調べたことがない。

もしそうなら、子どもだけを責めるのは筋違いではありませんか。

「AIは間違えるから危険」。では、あなたの平成の常識は誰が確かめましたか?

生成AIの会話画面と学校の資料を矢印で結び、虫眼鏡を添えて進路情報を公式情報と照らして確かめる図解のイラスト

今は生成AIという道具もあります。例えば、こんな質問をしてみるのはどうでしょう。

「動物が好きな中学生が将来考えられる仕事を、獣医師以外で教えて」

「高校の普通科、工業科、商業科、総合学科って何が違うの?」

「宇宙の研究をするなら、大学ではどんなことを学ぶの?」

AIから知らない職業や学問の名前が返ってきたら、今度はそれを調べればいい。職業については、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」で仕事内容や必要な知識・スキルなどを確認できます。学校や入試制度については、各学校や教育委員会などの公式情報を確認する必要があります。

なお、生成AIにはサービスごとに利用条件があります。例えばChatGPTは原則13歳以上が利用対象で、18歳未満は保護者の許可が必要です。中学1年生には12歳の子もいます。また、アカウントを他人に貸して使わせることも認められていません。年齢条件を満たさない子どもに対しては、親が自分で情報を調べ、内容を確かめてから紹介する方法があります。

さて、こういう話をすると、決まって出てくる反論があります。

「AIは間違えるから危ない」

生成AIは、存在しない学科や間違った制度を、もっともらしく説明することがあります。進路をAIに決めさせるべきではありません。でも、ここで一つ聞きたいんです。

「普通科が無難」

「専門学科に進むと、将来の選択肢が狭まる」

「大学はとりあえず出ておいたほうがいい」

あなたが持っている、こうした高校や大学のイメージは、いつ、誰に確かめたものでしょうか。自分が中学生だった頃の評判だけで、今の学校まで判断していませんか。あの頃の評判を、あの頃のまま放置していれば、古い知識で判断してしまっても不思議ではありません。AIの答えを疑うなら、自分の記憶だって疑ってみる。

子どものスマホには、OSのアップデート通知が届きます。親の常識には、アップデート通知は届きません。

「忙しい」は、扉を閉める理由にならない

親子が隣に座って同じパソコンで学校の情報を眺め、机の冊子と時計を添えて短い時間でも一緒に調べる様子のイラスト

「仕事も家事もあって忙しい。子どもの進路まで調べる余裕なんてない」

毎日、進路について話し合う必要はありません。興味を示していない子に、毎晩のように志望校を聞くのも、ただのプレッシャーです。でも、私が問題にしているのは、毎日進路指導をしないことではありません。

「私も中1の頃は分からなかった」

そう言って、子どもの側の扉まで閉めてしまうことです。

忙しいのは、今日調べられない理由にはなります。でも、扉を閉める理由にはなりません。

「今度、どんな仕事や学校があるか一緒に見てみようか」

まずは、そう声をかけるところから始められます。ただし、「今度ね」が永遠に来ない家庭もあるでしょう。だったら、具体的に決めてしまえばいい。

「日曜の夜、15分だけ調べてみようか」

何から始めればいいか分からないなら、こんな15分はどうでしょう。

  1. 都道府県の教育委員会が公開している高校一覧を開く。
  2. 名前を知らなかった学科を一つ選び、その学校の公式サイトで授業内容を読む。
  3. 「こんなことも勉強できるんだね」「どこが面白そう?」と話してみる。

志望校を決める必要はありません。知らなかった選択肢を一つ知ったら、その日はそれで十分です。親がすべての学校を知っている必要はありません。世の中の仕事に詳しくなる必要もありません。知らなかったら調べればいい。

「お父さんも知らなかった。ちょっと調べてみようか」

それでいいんです。知らないことに出会ったとき、大人がどう振る舞うか。それを見せることだって、立派な教育でしょう。

選択肢を見せることまで、過干渉ですか?

いくつもの道が分かれる地図を親子の手で広げ、特定の行き先を示さず本人が進路を選ぶ余地を残した図解のイラスト

「中1から進路について話したら、過干渉になるのでは?」

そう心配する人もいるでしょう。子どもが興味を示していないのに、毎晩のように志望校を問い詰める。親が「この高校へ行きなさい」「この仕事に就きなさい」と決めてしまう。それは確かに干渉です。

でも、行き先を決めることと、地図を見せることは違います。地図には、いろいろな道が載っています。どの道を選ぶかは、本人が決めればいい。ただし、親が望む学校だけを並べて「自由に選んで」と言うなら、それは地図を見せるふりをした誘導です。

「それには興味がない」「今は考えたくない」という返事も受け止める。親と違う道に関心を持ったら、その道も一緒に調べる。選択肢を広げるなら、選ばない自由も残しておくべきです。

地図も見せずに「好きなところへ行きなさい」と言うのは、自由の尊重ではありません。ただの放置です。

家庭の経済状況や住んでいる地域によって、現実に選べる学校や進路に差があることも事実です。だからこそ、早く調べる意味があります。学費の支援制度、寮のある学校、通学方法、奨学金など、知らなければ検討の候補にすら入らない情報があります。

調べたからといって、希望する進路に必ず進めるわけではありません。それでも、選択肢を知らないまま諦めることは避けられるかもしれません。親が行き先を決める必要はありません。でも、地図を広げることまで放棄する必要もないんです。

おわりに:「私も知らなかった」で終わらせないでほしい

最初の会話に戻ります。

「将来、何になりたいの?」

「分からない」

「そうだよね。お母さんも中学1年生の頃は、何も分からなかったもん」

ここまでは、そのままでいいと思います。親だって昔は分からなかった。子どもも今は分からない。それは自然なことです。でも、その後の一言は変えてほしいんです。

「だから、まだ考えなくていいよ」

ではなく、

「じゃあ、今度一緒に調べてみようか。お母さんの頃は、今ほど簡単に調べられなかったから」

それだけで、会話の向かう先は変わります。すぐに将来の夢が見つかるとは限りません。そもそも、今すぐ見つける必要もありません。

ただ、昨日まで知らなかった仕事を一つ知る。存在すら知らなかった学校について、少し調べてみる。そうした経験を重ねれば、将来について考える材料は増えていきます。

あなたが中学1年生だった頃に、さまざまな進路を知らなかったのは、仕方がなかったのかもしれません。でも、わが子が中学3年生の秋になって、

「そんな学校があったなんて知らなかった」

と初めて知ったとき。

そのときもまだ、「私も中1の頃は知らなかったから」で済ませるつもりですか?

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参考資料

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