まず、クイズを一問
次のうち、石油と関係しているものはどれでしょう?
- ペットボトル
- ポテトチップスの袋
- Tシャツ
- 消しゴム
- 歯ブラシ
正解は、全部です。

「え、Tシャツも?」と思った人は多いかもしれません。石油といえば、ガソリンや灯油のイメージが強いですよね。車を走らせる燃料、ストーブをつける燃料、飛行機を飛ばす燃料。そう考えると、服や消しゴムや歯ブラシと石油がつながっているとは、少し想像しにくいです。
でも実は、石油は「燃料」としてだけでなく、「材料のもと」としても大量に使われています。
そして、その材料の世界への入り口になっているのが、ナフサという物質です。
ナフサという言葉を聞いたことがある人は、あまり多くないと思います。でも、知ってみると「あ、これも石油からできていたのか」という発見が出てきます。
この記事では、ナフサとは何かを軸にして、石油がどうやってプラスチックやゴム、繊維、インクに変わっていくのかを追いかけていきます。
理科っぽい話でもあり、社会っぽい話でもあります。どちらが得意でも、きっと楽しめるはずです。
石油は「ごった煮」から始まる

まず、石油の基本から押さえておきます。
地面の深いところから掘り出される黒っぽい液体を、原油といいます。古代の生き物が地中に埋まり、長い年月をかけて変化したものだと言われています。
原油は、そのままでは使い物になりません。ガソリンとして売ることも、プラスチックの材料にすることも、原油のままではできません。そこで、製油所という大きな工場で「分ける」作業をします。これを精製といいます。
精製の仕組みは、わりとシンプルです。原油を加熱すると、成分ごとに沸騰する温度、つまり沸点が違うため、順番に分かれて出てきます。軽い成分は低い温度で、重い成分は高い温度で分かれます。
こうして取り出されたものが、ガソリン、灯油、軽油、重油などの石油製品になります。
ナフサも、このとき取り出されるもののひとつです。
ナフサの見た目は、透明からうすい黄色の液体です。ガソリンに近い性質を持ち、揮発しやすく、燃えやすい液体です。
ただし、ガソリンのように「燃やして車を動かす」ために使うのではありません。ナフサの本領は、プラスチックやゴムなどを作るための化学原料になることです。
ここが大事なポイントです。
ナフサは、燃料というよりも「材料のもと」なのです。
ナフサを分解すると、プラスチックへの道が開く

ナフサがそのままプラスチックになるわけではありません。もうひとつ、大事なステップがあります。
ナフサは、ナフサクラッカーという設備に送られ、約800℃以上の高温で加熱されます。このクラッキング、つまり分解という工程を経ると、ナフサはより小さな分子に分かれます。
そこで生まれるのが、エチレンやプロピレンといった物質です。
エチレンやプロピレンと聞いても、名前だけではピンとこないかもしれません。でも、これらは現代の製造業を支える、とても重要な物質です。
エチレンを大量につなげると、ポリエチレンになります。ポリエチレンは、レジ袋、食品用ラップフィルム、牛乳パックのコーティングなどに使われています。
プロピレンをつなげると、ポリプロピレンになります。ポリプロピレンは、お弁当の容器、マスク、洗濯かご、文房具など、身の回りのあちこちで使われています。
「ポリ」という言葉には、「たくさん」という意味があります。小さな分子をたくさんつなげて作った材料が、プラスチックの正体です。
流れをまとめると、こうなります。
原油 → 精製 → ナフサ → クラッキング → エチレン・プロピレンなど → 重合 → ポリエチレン・ポリプロピレンなど → 袋・容器・部品・日用品
プラスチックは、石油そのものではありません。石油を何段階も変化させた末にできるものです。
「石油が変身した姿」と考えると、イメージしやすいと思います。
ナフサからできるのはプラスチックだけじゃない

ナフサの出番は、プラスチックだけではありません。
合成ゴムも、ナフサ由来の材料から作られます。タイヤ、長靴、工場用手袋、医療用手袋など、ゴム製品の多くには合成ゴムが使われています。ゴムの木から採れる天然ゴムだけでは世界中の需要をまかないきれないため、合成ゴムが大きな役割を担っています。
合成繊維もそうです。ポリエステルのTシャツ、ナイロンのストッキング、フリースのジャケット。これらは綿や麻のような植物由来の繊維ではなく、石油を原料に化学的に作られた繊維です。
ちなみに、ポリエステルはペットボトルと同じPET、つまりポリエチレンテレフタレートという樹脂と関係が深い素材です。ポリエステルのTシャツとペットボトルは、化学的には親戚のような関係だと言えます。
インクや塗料にも、石油系の原料が使われています。お菓子の袋に印刷されたカラフルなデザイン、建物や車の塗装なども、石油と無関係ではありません。
医療用品も同じです。注射器、点滴チューブ、医療用手袋、薬の容器。使い捨てにできて、清潔に保ちやすいプラスチックやゴムは、現代医療に欠かせません。
コンビニのお菓子袋ひとつを見ても、袋のフィルム、印刷のインク、内側のコーティングなど、複数のナフサ由来の材料が使われている可能性があります。
目立たないけれど、あちこちに入り込んでいる。それがナフサです。
99%そろっても、1%が足りないと完成しない

ここから少し、経済の話に入ります。
ナフサが不足したり、価格が大きく上がったりすると、そこから作られる樹脂、フィルム、インク、塗料などが足りなくなったり、値段が上がったりします。
影響は、それだけにとどまりません。
製造業の現場では、ひとつの製品を作るために何十、何百という種類の材料を使います。本体の樹脂はそろっているのに、表面に貼るフィルムが足りない。商品はできているのに、袋に印刷するインクが調達できない。最後に使う接着剤が足りない。
そうなると、製品を完成させることも、出荷することもできません。
99%の材料がそろっていても、残り1%が欠けると完成しない。
1000ピースのジグソーパズルが1ピース足りなかったら完成しないのと同じです。
「全部なくなる」わけではありません。むしろ、「一部が足りないせいで全体が止まる」ことがあります。これがナフサ不足の怖いところです。
ポテトチップスで考えてみましょう。
ポテトチップスの値段は、じゃがいもだけで決まるわけではありません。袋のフィルム、印刷インク、工場の電気代、輸送費、人件費、店舗のコストなど、いろいろなものが積み重なっています。
包装や印刷のコストが上がれば、ポテトチップスの値段にも時間差で影響が出てきます。
「石油の話が、なんでお菓子の袋につながるの?」と思うかもしれません。
でも、原油 → ナフサ → 化学工場 → 包装材 → 食品メーカー → コンビニの棚、という一本の線がちゃんとあるのです。
石油備蓄があることと、ナフサが足りていることは別の話

「でも、日本には石油備蓄があるんじゃないの?」という疑問が出てくるかもしれません。
たしかに日本は、緊急時に備えて原油の備蓄を持っています。ただ、ここにも注意点があります。
原油を精製すると、ガソリン、灯油、軽油、重油、ナフサなどがまとめて出てきます。ナフサだけを好きなだけ増やすことはできません。
鶏肉で考えるとわかりやすいです。
鶏を一羽さばくと、むね肉、もも肉、手羽、皮、骨が一緒に出てきます。「むね肉だけもっとほしい」と思っても、むね肉だけを無限に増やすことはできません。
原油の精製も、これに少し似ています。
さらに、日本はナフサを国内の製油所で作るだけでなく、海外からも輸入しています。輸入先として中東が大きな割合を占めているため、中東の情勢が不安定になったり、タンカーの輸送ルートに問題が起きたりすると、調達に影響が出ます。
「遠い国のニュース」が、日本の工場や商品棚に影響するルートが、こうして生まれます。
原子力やEVでは解決できない、ちょっと意外な話

エネルギー問題といえば、原子力発電やEVがよく話題になります。
化石燃料への依存を減らすために、発電を原子力や再生可能エネルギーに切り替えよう。車をEVにして、ガソリンを使う量を減らそう。こうした考え方は、とても大事です。
ただ、ナフサの問題は、その文脈とは少しずれます。
ナフサは、電力の代わりに使っているものではありません。ものを作るための材料として使っているものです。
プラスチックを作るには、炭素を含む原料が必要です。ゴムも、インクも、合成繊維も同じです。発電方法をどう変えても、EVが普及しても、プラスチックの材料問題は別のところに残ります。
石油依存には、実は2種類あります。
1つ目は、燃料としての依存です。車を走らせ、暖房をつけ、発電するために石油を燃やす依存です。ここは、EVや原子力、再生可能エネルギーによって減らせる可能性があります。
2つ目は、素材としての依存です。プラスチック、ゴム、繊維、インクなどの材料として石油を使う依存です。ここは、エネルギー政策だけでは簡単には解決できません。
世の中の「脱炭素」や「脱石油」の議論は、燃料としての依存を減らすことに集中しがちです。でも、素材としての依存は、あまり話題にならないわりに、生活の奥深くまで入り込んでいます。
ナフサの話を知ると、この「もうひとつの石油依存」が見えてきます。
バイオプラスチックやリサイクルで解決できるのか

石油に頼りすぎるのが問題なら、バイオプラスチックやリサイクルを増やせばいいのではないか。そう考える人もいると思います。
その方向性は、とても大切です。
トウモロコシやサトウキビなど、植物を原料にしたバイオプラスチックはすでに存在します。廃プラスチックを回収して、もう一度原料として使うリサイクルも進められています。
ただし、それだけですぐにナフサを完全に置き換えられるわけではありません。
バイオプラスチックは、石油系プラスチックに比べてコストが高かったり、生産量が限られていたりします。用途によっては、強さ、熱への耐性、透明度、衛生面などの条件を満たす必要もあります。
リサイクルにも課題があります。プラスチックにはいろいろな種類があり、混ざると再利用しにくいことがあります。汚れを取り除く必要もありますし、リサイクルを繰り返すと品質が下がる場合もあります。
だから、バイオプラスチックやリサイクルは大事ですが、それだけで一気に解決する魔法の方法ではありません。
石油由来の材料を減らすためには、使う量を減らすこと、リサイクルしやすい設計にすること、石油以外の材料を増やすことなどを、少しずつ進めていく必要があります。
まとめ:石油は変身する
最初のクイズに戻りましょう。
ペットボトル、ポテトチップスの袋、Tシャツ、消しゴム、歯ブラシ。これらが全部石油と関係しているのは、石油が燃料であると同時に、材料のもとでもあるからです。
ナフサは、その材料化の出発点です。原油を精製して取り出し、高温で分解すると、エチレンやプロピレンが生まれます。そこからプラスチック、ゴム、繊維、インクが作られ、私たちの身の回りの製品になっていきます。
この流れを知ると、「原油価格が上がった」というニュースを見たとき、「ガソリンが高くなるのか」だけでなく、「日用品の包装にも影響が出るかもしれない」と考えられるようになります。
世界のどこかで輸送ルートに問題が起きても、「遠い国の話だな」で終わらなくなります。
石油は、掘り出されてそのまま燃えていくだけのものではありません。あちこちで形を変えながら、気づかないうちに私たちの生活の中に入り込んでいます。
ナフサを知ることは、身の回りのものがどこから来ているのかを考える入り口になります。
よくある質問
Q. ナフサとガソリンって何が違うの?
どちらも原油を精製して作られる石油製品ですが、用途が違います。ガソリンは、主に自動車などの燃料として燃やして使います。ナフサは、プラスチックやゴムなどを作るための化学原料として使います。沸点や成分が少し違うため、精製の段階で別々に取り出されます。
Q. 石油備蓄があるのに、なぜナフサ不足が問題になるの?
原油を精製すると、ガソリン、灯油、軽油、重油、ナフサなどがまとめて出てきます。そのため、ナフサだけを好きなだけ増やすことはできません。「石油備蓄がある=ナフサも十分」とは言い切れないのです。また、日本は海外からもナフサを輸入しているため、輸入先の情勢が調達に影響することがあります。
Q. バイオプラスチックが普及すれば、石油に頼らなくてよくなる?
トウモロコシやサトウキビなどを原料にしたバイオプラスチックは存在します。ただし、現状では石油系プラスチックに比べてコストが高かったり、生産量が少なかったりします。石油への依存を減らす助けにはなりますが、すべてをすぐに置き換えるのは難しいです。
Q. リサイクルが進めば、ナフサはもっと少なくて済む?
理屈の上ではそうです。廃プラスチックを回収して原料に戻せれば、新たなナフサの使用量を減らせます。ただし、プラスチックの種類が多くて分別が難しかったり、リサイクルを繰り返すと品質が下がったりする課題があります。リサイクルは大切ですが、今のところ需要全体をまかなえるほどではありません。
Q. 原子力発電やEV化で、石油依存はなくなるの?
燃料としての石油依存は減らせる可能性があります。ただし、プラスチック、ゴム、繊維、インクなどを作るには、炭素を含む原料が必要です。そのため、素材としての石油依存は、原子力発電やEV化だけではすぐになくなりません。
参考サイト
経済産業省「ナフサについて」
ナフサの定義、石油化学のサプライチェーン、2024年のナフサ調達元を参照。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/material_industry/pdf/260326.pdf
経済産業省「素材産業」
中東情勢を踏まえた石油由来の化学品・製品等の状況、供給の偏り、流通の目詰まりを参照。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/material_industry/index.html
資源エネルギー庁「石油備蓄の状況(推計値の速報)」
石油備蓄の状況を参照。
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl001/pdf-oil-res/oil_daily.pdf
IEA「The Future of Petrochemicals」
石油化学製品が今後の石油需要に占める重要性について参照。
https://www.iea.org/reports/the-future-of-petrochemicals

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