中学3年生の秋。たとえば、ごく普通の公立中学校に通う、学年250人中70番前後の男子生徒がいるとします。通知表は3〜4が中心で、ときどき5。毎日熱心に勉強するわけではありませんが、テスト前にはそれなりに机に向かいます。
そんな彼が言いました。
「普通科に行こうかな。大学にも行きたいし。できれば、いい大学に」
親はほっとします。
「そうね。高校に入ったら、もう少し頑張ろうね」
高校に入れば勉強に身が入り、学習習慣がついて、成績も伸びる。まだ何も変わっていないのに、未来の我が子だけは妙に頼もしくなっています。
学校には通っている。成績も悪くない。普通科にも受かりそう。目の前の高校受験に大きな不安がないので、その先の大学進学まで順調にいく気がしてしまうのです。
でも、ここで分かっているのは「その高校に入れそう」ということまで。大学へどう進むかは、まだ話していません。
高校の合格見込みを、大学進学までの安心材料にしていないでしょうか。
野球なら「どの高校で?」と聞くはずだ

小学生から野球を続け、中学でも野球部。地区大会で何度か勝ったけれど、県選抜に入ったことはなく、強豪校から声がかかっているわけでもない。
そんな子が「高校では甲子園を目指したい」と言ったら、どうでしょう。
応援するにしても、「今の実力はどのくらい?」「どの高校へ行くの?」「どんな指導や練習を受けられるの?」と、具体的な話をするはずです。
近所の高校になんとなく入り、今までと同じ調子で野球を続ければ、甲子園が見えてくる。そんな見通しで、安心できるでしょうか。
小学校から続けてきたことは立派です。でも、競う相手にも、長年の練習を積み重ねてきた選手がいます。自分が続けてきた年数だけでは、その相手と戦えるかは分かりません。
大学受験でも、同じように考えてみてください。同じ大学を目指す相手も、それまでに身につけた基礎や学習習慣を持ち込んで、高校の勉強を始めます。入学の日に、全員が横一線に並び直すわけではありません。
ところが、「普通科に入って、高校で頑張れば、いい大学へ」という話になると、実力も環境も確かめないまま、うなずいてしまう。
甲子園と大学受験の難易度が同じだという話ではありません。野球なら具体的に考える準備を、勉強では「頑張る」の一言で済ませていないか、という話です。
まず、その「いい大学」はどこなのか

東大や京大なのか。地元の国公立なのか。MARCHや関関同立なのか。学びたい分野のある大学なのか。
目指す大学が違えば、必要な科目も学力も、準備の仕方も変わります。中3で志望校を一つに決める必要はありませんが、親子で同じ大学を思い浮かべているかくらいは、話しておきたいところです。
そのうえで、今の学力を確かめます。
学年70番だけでは、難関大に届くとも、届かないとも言えません。その中学校の中での順位であって、学校の外にいる生徒との比較ではないからです。
まずは地域の高校受験に対応した外部模試などを使い、校内順位以外の物差しで学力を見る。点数や偏差値だけでなく、答案を見て、どの問題が解けていないのかを確かめる。
英語は単語が足りないのか、文法があやふやなのか。数学は計算で間違えるのか、方程式の立て方が分からないのか。「勉強が苦手」で止めず、ここまで具体的にすると対策が立てられます。
中3の模試で、3年後の大学受験の合否まで分かるわけではありません。今ある力と不足を把握し、高校選びや入学までの勉強に使うのです。
「高校から頑張る」の間、相手は休んでくれない

確かめてみて、目標に向けた基礎や学習習慣に不足があるなら、見通しは甘くできません。
中学の英語や数学に抜けがある状態で高校へ入れば、高校の内容を学びながら、中学の復習も必要になります。勉強する習慣がなかったなら、その習慣をつくるところから始めることにもなります。
しかも、「高校から頑張る」の3年間は、相手が休んでくれる3年間ではありません。同じ大学を目指す生徒たちも、勉強を続けています。
大きな学力差があるのに、勉強の仕方も環境も変えず、「高校ではもう少し頑張る」で難関大を狙う。それでは、かなり厳しい勝負です。
もちろん、高校から大きく伸びる子もいます。でも、「伸びる人がいる」は、「今のまま進学すれば、我が子も伸びる」という保証にはなりません。
高校の制服を着れば、勉強する習慣まで身につくわけではないのです。
甲子園を目指すなら高校を選ぶ。大学受験でも同じだ

普通科を選ぶなら、その先の大学進学まで見据えて選ぶ必要があります。高校選びは、大学受験に向けてどんな環境で3年間学ぶかを選ぶことでもあるからです。「この高校なら入れそう」で高校受験の見通しは立っても、大学への道筋まで立ったわけではありません。
どんな大学を目指し、そのためにどんな勉強をするのか。そこを考えずに普通科へ進み、あとは「高校で頑張る」で何とかなると思っているなら、見通しが甘すぎます。今考えるべきことを、未来の我が子に先送りしているだけです。
その勝負、いつから始まってるの?
高校野球なら高3の夏、大学の一般選抜なら高3の冬から春。そこは積み上げてきた力を問われる時期です。勝負の日のための準備はすでに始まっています。
中3の秋に「難関大を目指そう」と初めて考えたとき、ライバルの中には、すでに基礎学力や学習習慣を積み上げてきた生徒がいます。自分はこれから土台をつくるという状態なら、その相手に対しては出遅れています。その差が「高校で頑張るから」で埋まると、決めつけてはいけません。
中3で高校を選ぶこと自体が遅いのではありません。その時点でどんな準備の差があり、これからどう埋めていくのか。それを踏まえて、進学先を選ぶ必要があるのです。
高校選びで確認したい3つのポイント
甲子園を目指すなら、どの高校で、どんな指導や練習を受けるかを考える。大学受験でも、同じように学ぶ環境を確かめてください。候補の高校について、少なくとも次の三つは確認したいところです。
- 自分が入る学科やコースから、実際にどんな大学へ進んでいるか
- 受験に必要な科目を履修でき、どんな進度で学び、いつ演習に入るのか
- 質問対応や補習、模試の振り返りなど、学習を支える機会があるか
学校案内や進路資料を読み、分からないことは説明会で聞きます。同じ「普通科」でも、学ぶ環境は学校によって違います。
進学実績は、合格者数と進学者数、現役と既卒を区別して見てください。一人が複数の大学に合格すれば、合格者数はその分増えます。その実績は先輩たちが積み上げた結果であって、入学する自分への保証ではありません。
学校で足りない部分を、自習や塾でどう補うのか。費用は出せるか。通学や部活動と両立して、勉強時間を取れるか。本人がその生活を続けられそうか。高校の環境と本人の条件を、合わせて考えます。
将来が決まっていないから、普通科で選択肢を残す。その判断には合理性があります。ただし、希望する大学への道は、普通科に在籍しているだけで確保できるものではありません。その大学を目指せる学力を育ててこそ、選択肢になります。
「高校に入ってから頑張る」は、高校選びの段階で何も考えなくてよい理由にはならないのです。
「どこかの大学へ」なら、進学の中身を考える
難関大を目指すことと、どこかの大学へ進学することは、分けて考える必要があります。
「難関大でなくてもいい。大学には行ってほしい」という希望なら、入れるかどうかに加えて、その大学で何を学び、何を得られるのかを考えたい。
学問でも、資格でも、就職でも、知らなかった世界に触れることでもいい。15歳で将来の職業まで決める必要はありません。
でも、親自身がよく知らず、学ぶ内容も調べていない大学に、「大卒なら何とかなるだろう」と学費を払うつもりなら、一度立ち止まった方がいいでしょう。
大学の名前を知っているかどうかで、価値は決まりません。ただ、中身を知らないまま「とりあえず」で選ぶには、4年間と学費は軽くありません。
普通科だけでなく、工業高校や商業高校の学び、就職実績、進学の道も調べてみる。比べたうえで普通科を選ぶなら、その選択には理由があります。
「みんなが行くから」で済ませず、「この子に合うと思ったから」と言えるだけの材料を集めたいところです。
親の期待も諦めも、確かめてからでいい
一方で、「うちの子には無理」と、調べる前から選択肢を狭めるのも同じくらい雑です。「普通の家庭だから」「周りにそんな大学へ行った人がいないから」は、本人の学力を確かめたことにはなりません。
高すぎる期待も、低すぎる期待も、親の思い込みのままでは直せません。
本人が何を望み、今どんな力があり、候補の高校でどう伸ばせるのか。学校や塾の先生にも相談しながら、本人が選ぶための材料を一緒に集める。
親の希望を、本人の目標として押しつける必要はありません。ただ、親が進学を望むなら、「高校生になった我が子が何とかしてくれる」と、未来の本人に丸投げしていないでしょうか。
甲子園を目指す子には、今の実力と、どの高校で野球をするのかを聞く。難関大学を目指す子にも、今の学力と、どの高校でどう勉強するのかを聞く。
普通科に入れそうだからといって、希望する大学への道筋まで見えているわけではありません。
今の学力も、勉強する習慣も、進学先の環境も確かめず、なんとなく普通科へ進む。それで難関大学を目指せると思っているなら、見通しが甘すぎます。未来の我が子の頑張りを、あてにしすぎではないでしょうか。
「高校で頑張る」の一言で安心する。それ、野球なら信じますか?
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*参考資料
- 文部科学省「高等学校学習指導要領解説」
- 文部科学省「高等学校卒業者の学科別進路状況」
- 東京都立田園調布高等学校「教育目標・カリキュラム」
- 東京都立田園調布高等学校「進路指導・キャリア教育」
- 神奈川県立追浜高等学校「キャリアグループより(進路状況等)」

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