机に手を置いて、軽く押してみてください。手は机の表面で止まります。机の中を通り抜けることはありません。
ところが、手も机も「原子」という小さな粒が集まってできています。その原子は、中のほとんどが空間だといわれます。
隙間だらけなら、そのまま通り抜けられそうに思えます。それなのに、なぜ手は止まるのでしょうか。
手と机の原子を近づけすぎると、さらに押し縮めることへの抵抗が大きくなるからです。 その抵抗には、電気の作用と、電子が従う量子力学のルールが関わっています。
隙間があるかどうかだけでは、通れるかどうかは決まりません。まず原子の中身を確かめてから、ぶつかる前にも働く電気の力を見てみましょう。
原子の中には、何があるの?
原子は、物質をつくるとても小さな単位です。私たちの手にも、机にも、たくさんの原子が集まっています。
原子の中心には「原子核」があります。その周りにあるのが「電子」です。
原子核の直径は、原子全体のおよそ1万分の1〜10万分の1程度が目安です。原子の種類や大きさの定め方によって違いますが、原子核は原子全体に比べて、とても小さな部分です。
「原子の中はほとんど空間」という言い方は、まず原子核の小ささに注目したものです。
ただし、原子核の外側は、何も影響を受けずに通れる空き地ではありません。そこには電子があり、電気の力も働いています。
原子の中をどう調べるのか知りたい方は、小さな粒を使って物質のつくりを探る実験の話も読んでみてください。
ぶつからなくても、電気の力は働く
髪をとかして電気を帯びたくしを、小さな紙片に近づけると、触れる前から紙片が引き寄せられることがあります。これは、静電気による現象の一つです。
くしが紙片を引き寄せるように、電気の力は、物どうしが離れていても働きます。原子の中の電子や原子核の間にも、電気の力が働いています。
電子はマイナス、原子核はプラスの電気の性質を持っています。この電気の性質を表す量を「電荷」と呼びます。
電荷の符号が同じものどうしは反発します。反発とは、互いに遠ざける向きに力が働くことです。符号が違うものどうしには、引き合う力が働きます。
原子の中にある電子と原子核について整理すると、こうなります。
- マイナスの電子どうしは、反発する。
- プラスの原子核どうしも、反発する。
- マイナスの電子とプラスの原子核は、引き合う。

これらの力は、粒どうしが直接ぶつかる前から働きます。 隙間があることと、力を受けずに通れることは別なのです。
ここで、「でも、ふだんの手や机は電気を帯びていないのでは?」と思うかもしれません。
物全体でプラスとマイナスが釣り合っていても、電子や原子核がなくなるわけではありません。原子どうしが近づけば、どの電荷がどこにあるかによって、引き合う力も反発する力も働きます。
引き合う作用は、原子がまとまって机のような物質をつくることにも関わっています。そのため、机の手応えを「電子どうしが反発するから」だけで説明することはできません。
原子はまとまれるのに、どこまでも押し縮められるわけではない。この違いを考えるには、電子の性質をもう少し知る必要があります。
電子は、小さなボールとは違う
電子を、小さなボールだと思ってみるとどうでしょう。
「ボールが通り過ぎた後の隙間なら、別のものが入れるのでは」と考えたくなります。でも、電子を決まった道を走るボールとして考えるだけでは、原子の中の様子を説明できません。
電子のような小さなものの振る舞いを扱うのが「量子力学」です。
量子力学では、電子がどこで見つかりやすいかを、空間に広がる確率の分布で表します。ここでいう確率は、その場所で電子を見つける可能性の大きさです。
この分布を雲のように描いた図を「電子雲」と呼びます。雲の濃淡は、電子の見つかりやすさを表しています。「雲」は分布の描き方であって、電子が霧になったという意味ではありません。外側に硬い膜があるわけでもありません。

つまり、原子を「中心の粒と、その周りを走る小さなボール」だけで考え、ボールをよければ通れると判断することはできないのです。
電子の広がりが重なるなら、押し込めそうだけれど?
電子雲に硬い膜がないなら、手と机の電子の広がりは、重なってもよさそうです。
実際、電子の広がりが重なること自体は禁止されていません。原子が結びついて物質をつくるときにも、電子の広がりは重なります。
では、どうして手を机の中へ、どこまでも押し込めないのでしょうか。
ここで関わるのが、電子の「状態」です。これは、空間への広がり方などを含めた、電子のあり方を指します。量子力学で区別するこうした状態を「量子状態」と呼びます。
二つの電子は、同じ量子状態を占めることができません。 これが「パウリの排他原理」です。
「同じ場所に入ってはいけない」というルールではありません。空間的な広がりが重なっていても、量子状態が違えば、このルールに反しません。
机を押すときにも、電子はこのルールに従います。原子を近づけすぎると、電子は、同じ状態を占めないように状態を変える必要があります。
その変化が、押し込むことへの抵抗にどうつながるのでしょうか。次に、エネルギーとの関係を見てみましょう。
押し込むには、エネルギーが必要になる
エネルギーは、物を動かしたり、形などを変えたりすることに関わる量です。
手で机を押すと、机がほんの少しへこむことがあります。このように物を変形させるときにも、エネルギーを与えています。
小さな世界でも、電子の状態が変わると、持つエネルギーも変わることがあります。たくさんの電子を、みんな同じ低いエネルギーの状態に入れることはできません。先ほどの排他原理があるからです。
原子を近づけすぎたときに起こる電子の状態の変化は、全体のエネルギーを高くする要因になります。
ただし、排他原理だけで決まるわけではありません。電子と原子核の間などに働く電気の作用も合わせて考えます。全体のエネルギーには、電気の作用によるものと、電子の動きに関わるエネルギー(運動エネルギー)が含まれます。
机の中では、たくさんの原子が結びつき、互いにある程度の距離を保って落ち着いています。そこから近づけすぎると、全体のエネルギーが急に増します。
つまり、原子が結びついてまとまれることと、どこまでも押し縮められることは、別なのです。
その抵抗が、机の手応えになる
では、エネルギーが増えることと、机から押し返される手応えをつなげて考えてみましょう。
原子をさらに近づけるには、外から力を加えて押し進め、エネルギーを与えなければなりません。力を加えて物を動かし、エネルギーを与えることを、物理では「仕事」と呼びます。
力が一定で、その力と同じ向きに物を動かす場合は、次の式で表せます。
仕事=力×移動距離
式に馴染みがなくても、「同じ距離を動かすなら、強い力で押すほど、多くのエネルギーを与える」と考えれば大丈夫です。

原子を押し縮めるときの力は、距離によって変わります。それでも、同じ短い距離を押し縮めるのに、より多くのエネルギーが必要なら、その間に加える力も平均すると大きくなります。
つまり、「エネルギーが必要だから」という説明は、「どれだけの距離を動かすのか」と組み合わせることで、必要な力の大きさにつながります。これが、押す側から見た抵抗です。
排他原理は、電子が取れる状態を制限するルールです。新しい力を付け足すのではなく、電気の作用とともに、押し縮めたときのエネルギーの変化に関わっています。
手で机をゆっくり押し、そのまま支えられている状態までを整理すると、次のようになります。
- 手と机の表面が近づき、原子や電子の状態が変わる。
- さらに押し縮めることへの抵抗が生じる。力は周りの原子にも伝わり、手や机が少し変形する。
- 手が静止して支えられているときには、手に働く下向きの力と、机から受ける上向きの力が釣り合っている。
最後の段階で比べているのは、どちらも手に働く力です。「手が机を押す力」と「机が手を押す力」は別々の物に働くので、その二つを打ち消し合う力として扱うことはできません。

手が止まるのは、電子雲の硬い殻に当たるからではありません。原子どうしの作用によって押し縮めることへの抵抗が生まれ、机が手を支えるからなのです。
強く押したら、すり抜けるの?
力を大きくすれば、物はへこんだり、割れたりすることがあります。原子の並びが変わり、結びつきが切れて、構造が壊れる場合もあります。
それは、手と机が元の形を保ったまま、互いの中を通り抜けることとは違います。
原子核が小さくても、その周りでは電子や原子核が互いに影響を及ぼしています。そして電子は、量子力学のルールに従っています。
机に手を置くという身近な場面にも、この小さな世界の仕組みが関わっています。空間が多いかどうかだけでは、通り抜けられるかどうかは決まらない。 これが、机の手応えから分かる大切なポイントです。
*関連記事
電子の運動エネルギーや、量子力学の「トンネル効果」についても詳しく知りたい方へ。
→原子の中はほとんど空間なのに、なぜ手は机をすり抜けない?
→【中学生でも簡単にわかる】南極の氷で宇宙がわかる?ニュートリノと2026年ノーベル物理学賞
参考資料
資料確認日:2026年10月31日。原子の構造、電子の状態、近距離での抵抗、仕事と力の関係を、以下の教材で確認しました。
米国エネルギー省「DOE Explains…Nuclei」:https://www.energy.gov/science/doe-explainsnuclei
OpenStax『Chemistry 2e』6.3「Development of Quantum Theory」:https://openstax.org/books/chemistry-2e/pages/6-3-development-of-quantum-theory
OpenStax『University Physics Volume 3』8.4「The Exclusion Principle and the Periodic Table」:https://openstax.org/books/university-physics-volume-3/pages/8-4-the-exclusion-principle-and-the-periodic-table
OpenStax『University Physics Volume 3』9.1「Types of Molecular Bonds」:https://openstax.org/books/university-physics-volume-3/pages/9-1-types-of-molecular-bonds
The Feynman Lectures on Physics, Vol. I, Chapter 12「Characteristics of Force」12–3:https://www.feynmanlectures.caltech.edu/I_12.html
The Feynman Lectures on Physics, Vol. I, Chapter 14「Work and Potential Energy (conclusion)」14–1、14–5:https://www.feynmanlectures.caltech.edu/I_14.html
OpenStax『University Physics Volume 1』5.5「Newton’s Third Law」:https://openstax.org/books/university-physics-volume-1/pages/5-5-newtons-third-law
OpenStax『University Physics Volume 2』5.1「Electric Charge」:https://openstax.org/books/university-physics-volume-2/pages/5-1-electric-charge
OpenStax『University Physics Volume 1』7.1「Work」:https://openstax.org/books/university-physics-volume-1/pages/7-1-work
英国物理学会 IOP「Episode 522: The size of the nucleus」:https://spark.iop.org/episode-522-size-nucleus
OpenStax『University Physics Volume 3』10.1「Properties of Nuclei」:https://openstax.org/books/university-physics-volume-3/pages/10-1-properties-of-nuclei

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